上腕骨近位部骨折の画像診断

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骨折を見逃さない技術:上腕骨近位部骨折

この動画シリーズでは、救急の現場で働く放射線技師が「骨折を見逃さないために」というテーマで解説しています。
各部位の骨折の病態について理解を深め、骨折の典型的なパターンと分類を整理し、骨折線をイメージできるように訓練していきます。そうすることで、発見が難しい骨折を医師に適切に報告したり、時には追加撮影を行うことによって、骨折線を説得力を持って描写する力が身につくことを目的としたシリーズです。今回のテーマは「上腕骨近位部骨折の画像診断」です。

症例1:86F 転倒、左肩痛、左腕の腫れ

左上腕骨近位部に明瞭な骨折があります。解剖的には外科頸骨折で転位した骨片を含めて上腕骨が2Partにわかれた骨折となります。

上腕骨近位部骨折の病態

上腕骨近位部骨折は、上腕骨近位端骨折とも呼ばれ、骨粗鬆症が進行している高齢者の転倒など、低エネルギー外傷で多く見られます。高齢者の転倒後の肩痛で最も多いのが骨折であり、鑑別診断として最初に挙げるべき疾患です。


大腿骨頸部骨折、橈骨遠位端骨折、脊椎圧迫骨折とあわせて、脆弱性骨折の「四大骨折」とも言われています。

一方、少年や成人では、交通事故などの高エネルギー外傷で起こることが多いですが、その頻度は低いとされています。
受傷の典型的なエピソードとしては、「転倒して手をついた」「肩から直接床に倒れた」などが挙げられます。

上腕骨近位部の重要解剖

続いて、上腕骨近位部の解剖を見ていきましょう。
上腕骨近位部には2つの結節があり、外側が大結節、内側が小結節と呼ばれます。
大結節には、棘上筋・棘下筋・小円筋が付着し、小結節には肩甲下筋が付着します。

また、上腕骨近位部にはくびれた「頸部」と呼ばれる部分が2つあります。
上腕骨頭の半球部分にあるくびれを「解剖頸」、大・小結節の下で上腕骨体へ移行するくびれを「外科頸」と呼びます。
外科頸は骨折が多発し、整形外科的処置が多く行われる部位のため、その名がつけられています。

上腕骨近位部骨折の分類(Neer分類)

上腕骨近位部骨折では、「Neer(ニア)の分類」がよく用いられます。
この分類法では、骨折部位を「解剖頸・外科頸・大結節・小結節」の4つに分け、それぞれに転位があるかでパート数を判定します。

ここでいう「転位」とは、骨片のずれが1cm以上、または45度以上の角度があることと定義されます。
例えば、解剖頸に骨折線があり、転位の基準を満たしていれば、「解剖頸の2Part骨折」となります。
大結節に骨折線が2つかつ転位がある場合は「大結節の3Part骨折」と分類されます。
転位の定義を満たさない骨折は、「minimal displacement」と定義されます。

特殊な骨折として、脱臼を伴う前方脱臼骨折や後方脱臼骨折があります。
これらを正確に分類するためには、X線だけでは不十分で、CTが必須とされています。

Neerの分類を理解することで、上腕骨近位部骨折の骨折線をより具体的にイメージできるようになります。
特に大結節と外科頸の骨折頻度が高いため、撮影前にこれらの部位に骨折線があることを想定すると、診断しやすくなるでしょう。

転位の有無やその程度、パート数によって治療方針が決定されます。

症例検討

(先述)症例1:86F 転倒、左肩痛、左腕の腫れ

X線で外科頸に明らかな骨折線と転位が確認され、2Part骨折と診断。髄内釘による固定術が行われました。

症例2:55M、交通事故

X線では外科頸に明瞭な骨折線あり(黄色)。CTで解剖頸にも骨折線を確認(水色)。3Part骨折で、髄内釘固定術が施行されました。このように上腕骨近位部骨折のNeer分類を正確に行うためにはCTが非常に有用です。

症例3:85F 転倒で肩を受傷

骨頭が大きく転位し、骨折線も多数。人工骨頭置換術が考慮されました。

症例4:77F 転倒ー脱臼骨折

骨折線が明瞭かつ前方脱臼を伴う。関節下に骨頭が移動し、大結節・小結節にも骨折。骨頭の粉砕もあり、整復成功後はプレート固定術が施行されました。

治療方針

以下の治療方針で進めることが多い

1パート骨折/転位が軽微:保存療法

2〜3パート:プレート固定や髄内釘固定術

4パート・脱臼骨折:人工骨頭置換術が選択されやすい

人工骨頭の適応について

複雑な4パート骨折では人工骨頭置換術が選択されることが多い。

上腕骨頭には、腋窩動脈から分岐する前上腕回旋動脈と後上腕回旋動脈が栄養血管として存在します。
これらの回旋動脈から伸びる細かな枝が、骨頭軟骨を栄養しています。

しかし、外科頸や大結節、小結節に骨折が起きた場合には、これらの栄養血管が一緒に損傷してしまうことがあります。
その結果、骨頭軟骨への血流が途絶え、上腕骨頭壊死を引き起こす可能性があります。

このような壊死を防ぐために、骨頭ごと人工骨頭に置換するのが、人工骨頭置換術が適用される主な理由となります。

大結節骨折について

症例5:大結節骨折

レントゲンでは骨折線は不明瞭。臨床的に不顕性骨折が疑われ、MRIが施行された。MRIでは脂肪抑制T2強調画像にて高信号の浮腫が描出され、T1強調画像では大結節の骨折線が低信号として描出された。

大結節骨折は、上腕骨近位部にある大結節(greater tubercle)に生じる骨折で、特に腱板筋群(棘上筋・棘下筋・小円筋)の付着部であるため、機能的に重要な部位です。

腱板筋群が大結節を包み込むように付着しているため、骨折しても筋肉の張力によって骨片の転位が比較的少ないことが多い特徴があります。

その一方で、骨折による腱板の損傷や炎症反応により臨床症状(痛み・可動域制限など)が強く出ることも多いです。

レントゲンでの描出が難しい微細な骨折(minimal displacement)のことが多く見逃されやすいです。よって診断にはMRIが非常に有用となります。

MRIではレントゲンでは見逃される骨折線の検出が可能であり、骨髄浮腫(bone bruise)も観察できます。

T1強調画像で低信号に描出される骨折線の有無に加えて、外傷性腱板断裂の評価も同時に行えるため、腱板付着部損傷の有無を確認する上で極めて重要です。

肩関節の可動域制限や痛みが強いにもかかわらず、X線で明らかな異常が認められない場合にはMRIが適応される可能性があります。

参考文献

羊土社 救急・当直で役立つ!骨折の画像診断 福田国彦他

医学書院 標準整形外科学 鳥巣岳彦他

中外医学社 骨折ハンター 増井伸高

メディカルサイエンス・インターナショナル 関節のMRI 上谷雅孝他

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