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🔍 この記事の目的
この動画シリーズでは、骨折を見逃さない技術として、さまざまな骨折をテーマに取り上げています。救急撮影でレントゲンなどを用いた際に骨折を見逃さないために、どのような知識を持っておくべきかについて解説しています。
今回はその中で、上腕骨顆上骨折の画像診断をテーマに取り上げます。
上腕骨顆上骨折は小児の肘の外傷で最も頻度の高い、重要な骨折です。
この動画の目標は以下の3点です:
- 上腕骨顆上骨折とはどのような骨折かを知る
- 骨折の分類と治療方針を理解する
- 骨折線が明瞭でない場合に使える間接的な診断指標を学ぶ
これらのテーマに沿って解説していきますので、興味のある方はぜひ続きをご覧ください。
📖 目次
見逃しを防ぐ!レントゲン関節所見
└ Fat Pad Sign
└ Anterior Humeral Line
└ Baumann角
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上腕骨顆上骨折とは?

今回の症例は7歳の男児です。
遊具から転落し、左肘を強打、受傷した外傷機転です。
レントゲンの正面像および側面像では、明らかな骨折と転位が確認されました。
特に側面像の方が転位の状況がより明瞭に確認できます。
外側上顆・内側上顆の上部に骨折線が認められ、典型的な上腕骨顆上骨折の症例です。

この患者さんは転位が非常に強く、橈骨動脈の脈が弱い状態であったため、整形外科へ緊急コンサルトとなり**手術(ピンニング)**が施行されました。
術後のレントゲンでは、ずれていた骨片が整復されている様子が確認できました。

英語ではsupracondylar fracture of the humerusと呼ばれ、小児において特に頻度の高い骨折です。
小児肘関節周囲の骨折の中で最多であり、**全肘外傷の約60%**を占めるとされています。
好発年齢は5~10歳です。
ちなみに、類似の症状を起こす可能性がある肘内障(橈骨頭亜脱臼)は1~4歳に好発するため、年齢である程度の鑑別が可能です。
【臨床症状と合併症】
上腕骨顆上骨折では、骨折部に腫脹や強い痛みが生じ、肘の可動域が制限されることが一般的です。転位が強い場合には、外見上で肘の変形が明らかになることもあり、骨片が皮膚側に突出して皮膚の発赤や隆起がみられることもあります。
さらに、重症例では正中神経や尺骨神経の損傷によるしびれや感覚障害、あるいは血管損傷によって前腕が虚血に陥り、筋肉の短縮と壊死を招くフォルクマン拘縮などの合併症が起こる可能性もあります。
今回の症例のように転位が明らかな骨折は画像診断の難易度は高くないですが、小児の上腕骨顆上骨折は画像上で骨折線が明瞭に描出されないことも多く、見逃しのリスクが非常に高い骨折であるため、レントゲン撮影時や読影時には細心の注意が必要です。
ます。
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分類と治療方針(Gartland分類)

続いて、上腕骨顆上骨折の分類について見ていきたいと思います。
骨折を分類することは、治療方針を決定する上で非常に重要です。
この動画では、臨床でよく使用される分類としてGartland分類をご紹介します。
Gartland分類は以下の3つに分かれます。
- タイプ1:骨折線は認められるが、骨片の転位がないもの。
- タイプ2:軽度の転位がある。前方の骨膜は破綻しているが、後方の骨膜は保持されている状態。
- タイプ3:完全転位。前後両方の骨膜の連続性が破綻した状態。

上腕骨顆上骨折の治療は、このGartland分類に基づいて決定されます。
- タイプ1は転位がないため、**保存療法(ギプス固定)**が行われます。
- タイプ2およびタイプ3は転位があるため、整復が必要となり、場合によっては手術が適応されます。
- 特にタイプ3は完全転位であるため、手術が基本的に必要です。
したがって、骨折の転位があるかどうかが治療の鍵になります。転位がある場合は、即時整復が必要となり、整復困難な場合は手術の選択肢が考慮されます。
保存療法では、骨折を整復した後に、肘関節をギプスで固定します。これはタイプ1や軽度のタイプ2が対象となります。
手術療法では、**ピンニング(キルシュナーワイヤーを2本使用)**による骨片の固定が行われます。
尺骨神経損傷を予防するために、橈骨側からピンを挿入するのが一般的です。
たとえば最初に提示した症例では、転位が著明であり、明らかにタイプ3(完全転位)でした。

次に提示する症例では、上腕骨の骨折線が明瞭に確認でき、わずかに転位が認められたタイプ2の症例であり、こちらもピンニングが行われました。
タイプ | 転位の程度 | 治療法 |
---|---|---|
Type I | 転位なし | 保存療法(ギプス固定) |
Type II | 軽度転位(後方骨膜保持) | 整復+ギプス or ピンニング |
Type III | 完全転位(連続性なし) | 手術(ピンニング)必須 |
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4. 見逃しを防ぐ!レントゲン間接サイン
最も骨折の検出が難しいのはタイプⅠです。

この症例では右肘と左肘の正面像および側面像を比較しても、骨折の部位を見つけるのは非常に難しいです。

このような症例では、CT検査により骨折線を確認できる場合があります。
それではこのような症例でレントゲンで骨折を疑うことはできないのでしょうか?
このようなレントゲンで明確な骨折線が見えにくいタイプⅠの骨折を見逃さないためには、間接所見の評価が重要です。
ここで紹介したいのが、2つの間接所見です。
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Fat Pad Sign

肘関節に関節液(血液や滲出液)が貯留し、関節周囲の脂肪層が押しのけられてX線上に黒い陰影として認識される所見です。
- 前方に認められる脂肪線はanterior fat padと呼ばれます。正常でも薄く認められますが、異常時には「セイルサイン(帆の形)」のようにふくらんで見えます。
- 後方に認められる脂肪線はposterior fat padと呼ばれ、通常は見えません。したがって、後方のposterior fat padが見える場合、それ自体が異常を意味します。
前方のFat Pad Signは橈骨頭骨折で、後方は上腕骨顆上骨折でよくみられるとされます。
なぜこのように見えるのかというと、血液や関節液はX線吸収が強く白く見えるため、その前にある脂肪層(X線吸収が低い=黒く見える)が明瞭に浮き出てくるためです。
このサインが陽性の症例のうち、実際に骨折があった割合は約44.6%であり、
その内訳は以下のとおりです:
- 上腕骨顆上骨折:43%
- 近位尺骨骨折:19%
- 近位橈骨骨折:17%
- 外側上顆骨折:14%
また、Fat Pad Signが陰性かつ肘の伸展が可能な場合は、骨折を除外できる確率が94.6%と報告されています。
このように、ファットパッドサインは骨折の発見にも、骨折の除外にも使える有用な所見です。
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4-2. Anterior Humeral Line

上腕骨の前縁をなぞった直線が、肘の側面像でどこを通るかを見る所見です。
- 正常時:このラインは、上腕骨小頭の中央を通ります。
- 異常時(伸展型顆上骨折など):骨幹部が前方、小頭が後方にずれるため、ラインが小頭の後方を通過するように見えます。
上腕骨顆上骨折の約98%は伸展型であり、この所見は極めて有用です。
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Baumann角

正面像で上腕骨の長軸と骨端線がなす角度を指し、
整復後の骨のアライメントが適切かどうかを判断するために使用されます。
- 正常値は約70〜80度
- 左右差が5度以上ある場合は、内反肘などの変形を疑う
また、術後の整復確認にも使える信頼性の高い評価指標です。
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5. 撮影時のポイントと工夫
💡新人技師が気をつけたい3つのポイント:
① 正確な正面像・側面像の撮影
- 骨折部の評価に不可欠
② 左右比較
- 特にType Iでは必須。健側との比較で骨折の有無を探る
③ 可動域制限への配慮
- 撮影困難な場合あり → 保護者の協力や工夫で安全に撮影
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6. まとめと参考資料
まとめ
- 5〜10歳の肘外傷=まず顆上骨折を疑う!
- 転位の有無が治療方針のカギ
- レントゲン所見がはっきりしないときは:
- Fat Pad Sign
- Anterior Humeral Line
- Baumann角
- 撮影は「正面・側面の正確性」と「左右比較」を心がける
参考資料
- Alton TB, et al. Clin Orthop Relat Res.2015;473(2):738-41.
- B Kappelhof et al.JBJS Rev. 2022 Oct 24;10(10).
- 中外医学社 骨折ハンター 増井伸高
- 羊土社 救急・当直で役立つ!骨折の画像診断 福田国彦他
- 医学書院 標準整形外科学 鳥巣岳彦他