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【概要】
まずは血管解剖の全体像を確認していきたいと思います。
大動脈から腕頭動脈、左の総頚動脈、そして左の鎖骨下動脈に分かれます。そして、腕頭動脈からは右の鎖骨下動脈と右の総頚動脈に分かれます。今回注目したい内頚動脈は、総頚動脈から分かれる血管で、総頚動脈からは内頚動脈と外頚動脈に分かれていきます。外頚動脈は顔の表面を栄養していきますが、内頚動脈は顔の深部や脳を栄養します。そして上に上がっていき、中大脳動脈や前大脳動脈などに分かれていく構造になっています。このような内頚動脈(ICA:Internal Carotid Artery)が今回注目していきたい血管です。
脳の血管からはヒゲのような非常に細い枝である穿通枝が生えており、内頚動脈からはこのように後方に走る穿通枝があります。前脈絡動脈(Anterior Choroidal Artery)とも呼ばれる血管で、大脳基底核、視覚路、間脳などを栄養し、最終的には脈絡層内に分布します。
【セグメント】
総頚動脈から外頚動脈と内頚動脈に分かれ、この2つに分かれたところからが内頚動脈のスタートです。そしてそこから上行する部分を内頚動脈のcervical segmentといいます。そして上に上がっていき、ここから側頭骨の錐体部というところに入るので、内頚動脈の錐体部(petrous Segment)といいます。
さらに上に上がると、三叉神経節の周辺を通るため、三叉神経節部(ganglial segment)もしくは海綿静脈洞前部(precavernous segment)というところを通ります。ここからは海面静脈洞内部に入り、海面静脈洞部(cavernous segment)と呼ばれる部分を通過します。そこから硬膜を貫通した後の部分となります。この辺りは蝶形骨の前床突起や後床突起の周辺を通るため、床上部(supraclinoid segment)と呼ばれる領域となります。
Fischer分類は内頚動脈を頭蓋内から5つのセグメントに分ける方法です。
上から下に分類していることに注意し、それぞれのセグメントの定義とそれぞれのセグメントの重要な解剖構造を押さえましょう。
Bouthillier分類は、内頚動脈を頭蓋外から頭蓋内に向けて7つのセグメントに分ける方法です。
こちらは下から上に分類していることに注意しましょう。
【重要な解剖構造】
☆頚動脈管(carotid canal)
頚動脈管(けいどうみゃくかん)は、側頭骨内に位置する重要な解剖学的構造で、内頚動脈が頭蓋内へ到達するための通路として機能します。画像診断では次の2つの部分に分けることがポイントです。
1. Vertical Portion
頚動脈管の入り口から始まり、内頚動脈が鼓室内側を上昇する部分
2. Horizontal Portion
頚動脈管の出口に向かい、耳管の内側を水平に走行する部分
☆蝶形骨
蝶形骨を上から見ると名前の通り、蝶のような形をしています。蝶形骨にはくぼみがあり、下垂体が収まるくぼみのことを「トルコ鞍」と呼びます。
トルコ鞍の前後には骨の突起が見られます。この突起は「床突起(clinoid process)」と呼ばれ、前側に尖った部分を「前床突起」、後ろ側に尖った部分を「後床突起」といいます。これらの前床突起や後床突起の近くを内頚動脈が通っています。
☆海綿静脈洞(cavernous sinus)
海綿静脈洞はその名の通り、海綿状の構造を持つ静脈洞です。この海綿静脈洞の内部には内頚動脈と外転神経が走行しており、外側壁には動眼神経、滑車神経、眼神経、上顎神経などが前方に向かって走っています。このように、海綿静脈洞は多くの血管や神経と密接に関連しており、非常に重要な解剖学的構造です。
☆三叉神経節とメッケル腔
三叉神経(V)は脳神経の第5番目で、顔面の感覚を主に担い、咀嚼筋の運動も支配します。
三叉神経は三叉神経節から眼に向かう眼神経(V1)、上あごに向かう上顎神経(V2)、下あごにむかう下顎神経(V3)に分かれます。
三叉神経節は、メッケル腔と呼ばれる脳脊髄液に囲まれたスペース内に位置します。
MRI(特に薄いスライスのMR cisternography)を用いると、三叉神経と内頚動脈の位置関係を明瞭に観察できます。この撮影法では水信号が強調されるため、脳脊髄液やその中を走行する神経や血管がはっきりと描出されます。MRAとMR cisternographyから内頚動脈とメッケル腔の位置関係を確認しておきましょう。
☆破裂孔(foramen lacerum)
頭蓋底の破裂孔は、頭蓋底にある解剖学的構造の一つで、蝶形骨、側頭骨、後頭骨の間に位置する開口部です。小血管や神経が内部を貫き、動脈そのものが破裂孔を完全に通過するわけではありませんが、頸動脈管を通過した内頸動脈が、破裂孔の上を斜めに走行して頭蓋内に入ります。セグメントC3に関連するため、内頚動脈の周辺構造として非常に重要です。
【正常変異と破格】
☆内頚動脈形成不全
MRAを観察すると、右側の内頚動脈は確認できますが、左側の内頚動脈は観察されません。同様に、下から見ても右側の内頚動脈は確認できますが、左側はやはり観察できません。一見すると内頚動脈が詰まってしまったようにも思えますが、この症例は先天的に内頚動脈の形成不全が起こったものです。
内頚動脈が詰まっている場合と形成不全の場合をどのように鑑別するかというと、頸動脈管に注目します。このCT画像の骨条件では、右側の頸動脈管のHorizontal PortionおよびVertical Portionが確認できますが、左側では確認できません。このように、頸動脈管自体が形成不全の場合には、内頚動脈が詰まったのではなく、先天的に形成されていないと判断できます。
内頚動脈形成不全は、一側性または両側性に内頚動脈が欠損する先天異常です。用語としては、形成不全を「aplasia」や「agenesis」と表現し、低形成を「hypoplasia」などと表現します。閉塞や狭窄との鑑別ポイントとして、頸動脈管も形成されないことが最大の特徴です。
内頚動脈形成不全では、側副血行路が発達すると無症状である場合が多いとされていますが、一過性の虚血発作が症状として現れることがあります。また、このような形成不全がある場合、血行動態が通常と異なるため、脳動脈瘤の合併率が高いとされています。通常、脳動脈瘤の発生率は2~4%とされていますが、内頚動脈形成不全がある場合には24~34%に上昇するとされています。
さらに、内頚動脈形成不全はType AからType Fまでの6つの分類に分けられます。今回紹介した症例は、後方循環系から補われるType Aの症例でした。
次に、別の正常変異の症例を見ていきましょう。MRAを確認すると右側の後大脳動脈は椎骨動脈と脳底動脈から分岐していることが確認できます。一方左側の後大脳動脈は非常に細く低形成となっています。そして、内頚動脈から前脈絡動脈が分岐していますが、左側の前脈絡動脈が異常に太く、この前脈絡動脈が後大脳動脈の支配領域を栄養していることが分かります。この症例は前脈絡動脈過形成です。
前脈絡動脈過形成は、前脈絡動脈が太く、脈絡叢への分岐に加えて後大脳動脈との吻合が太くなる正常変異です。このような太い前脈絡動脈が後大脳動脈の支配領域を栄養するため、後交通動脈や後大脳動脈は低形成を示すことが多いです。このような太い前脈絡動脈は「anomalous temporal artery」とも呼ばれます。
続いて、もう一つの正常変異の症例です。椎骨動脈が合流して脳底動脈となりますが、この脳底動脈を追っていくと、内頚動脈と脳底動脈をつなぐ血管構造が確認されます。側面像でも内頚動脈と椎骨動脈の吻合がはっきりと見られます。この構造は、「遺残三叉動脈」と呼ばれる正常変異です。
内頚動脈ー椎骨脳底動脈間吻合路は胎生期に一時的に見られる構造であり、通常は成長とともに消失しますが稀に遺残する場合があります。
内頚動脈ー椎骨脳底動脈間吻合路には遺残三叉動脈、遺残聴神経動脈、遺残舌下動脈、遺残前環椎動脈があります。
☆参考書籍・文献
- 秀潤社『脳 MRI 1. 正常解剖 第2版』高橋昭喜
- 南山堂『解剖学講義』伊藤隆他
- Bonasia et al. “Contemporary Neurosurgery” 42(18):p 1-5, December 30, 2020.
- Prathamesh S. Pai, Aliasgar Moiyadi, Deepa Nair “Indian J Surg Oncol” 1(2):125–132
- Curtis A et al. “AJNR Am J Neuroradiol” 22:1953–1959, November/December 2001
- R. S. Tubbs et al. “J Neurosurg” 114:1127–1134, 2011