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はじめに
脳梗塞疑いの患者さんが救急で搬送され、MRI撮像が行われる際、よく「必須」とされる3つのシーケンスがあります。
それは、
① 拡散強調画像(DWI)
② FLAIR画像
③ MRアンギオグラフィー(MRA)
です。
中でも今回は「FLAIR」に注目し、急性期脳梗塞でなぜこれほど重要なのかをわかりやすく解説していきます。
FLAIRってどんなシーケンス?

FLAIRとは Fluid Attenuated Inversion Recovery の略で、「液体(fluid)の信号を抑える(attenuated)反転回復法(inversion recovery)」を意味します。
つまり、脳脊髄液(CSF)を抑制し、T2強調画像の一種として機能するシーケンスです。
通常、T2強調画像では脳脊髄液が高信号になり、脳室周囲の病変や脳脊髄液に埋もれた構造が見えにくくなることがあります。FLAIRではこの脳脊髄液の信号を抑制することで、病変の視認性を大きく改善します。
FLAIRの仕組みをやさしく理解しよう

FLAIRでは、まず180度の反転パルスをかけて縦磁化を反転させます。その後、各組織のT1値に応じて縦磁化が回復します。
そして、脳脊髄液の縦磁化が0になるタイミングで撮影を実行すると、脳脊髄液の信号はほとんど出ず、脳脊髄液が抑制されたT2強調画像となるのです。
このため、脳脊髄液の高信号に埋もれていた病変が浮かび上がりやすくなるというメリットがあります。
細胞性浮腫と血管性浮腫を見分ける

急性期脳梗塞では、時間の経過とともに細胞性浮腫→血管性浮腫へと進行します。
細胞性浮腫は発症後1〜3時間前後に出現する病態で、細胞外液の水分が細胞内に流入することにより神経細胞が腫脹し、細胞間隙が狭くなることで水分子の拡散が制限されます。この結果、MRIでは拡散強調画像(DWI)で高信号、ADCマップで低信号として描出されます。水の総量自体は変化しないため、FLAIR画像では信号変化が認められないのが特徴です。

血管性浮腫は発症後4〜12時間前後に出現し、血液脳関門(BBB)が破綻することで、血管内から大量の水分が漏れ出し、細胞間隙に蓄積されます。このように細胞外の水分量が増加することで、FLAIR画像では高信号として描出されるのが特徴です。
DWI-FLAIRミスマッチ:画像が“時間の砂時計”に!

脳梗塞治療において非常に重要なのが、血栓溶解療法(tPA投与)の適応判断です。
この治療は「発症から4.5時間以内」とガイドラインで定められています。しかし、起床時発症など、発症時刻が不明なケースもあります。
そんな時に活躍するのが、DWI-FLAIRミスマッチの所見です
DWI-FLAIRミスマッチ

☆陽性
「DWIで高信号」かつ「FLAIRでは信号変化なし」
→ 発症から3時間以内の細胞性浮腫 → tPA投与の適応あり
☆陰性
「DWI高信号」かつ「FLAIRも高信号」
→ 発症から4時間半以上経過した血管性浮腫 → tPA投与による出血のリスクが高い
FLAIRの信号変化を“時間の砂時計”として利用することで、治療可能な時間帯かどうかを画像から推定することができます。
もうひとつの重要サイン:intraarterial signal(IAS)

通常、血流のある血管はFLAIRで低信号です。これは「flow void」と呼ばれる現象で、血流が早いため90度・180度パルスの両方を受けられず、信号が出ないことが理由で生じます。
しかし、血流が停滞しているとパルスを両方受けられ、異常な高信号となります。これが「IAS(Intra-arterial Signal)」です。
このサインを利用すれば、MRAがなくても血流の停滞や閉塞を疑うことが可能になります。論文では他にも「FLAIR vascular hyperintensity」や「hyperintense vessel sign」など、様々な名称があります。
IASの実際の見え方

T2強調画像ではCSFが高信号のままなので、IASは目立ちにくいことがあります。ですが、FLAIRではCSFが抑制されているためIASが非常に見やすくなります。
MRAが撮れない場合でも、FLAIRでIASを確認することで血管閉塞部位の推定が可能です。
まとめ
FLAIRは単なるT2強調画像の派生シーケンスではなく、脳脊髄液を抑制することで病変の可視性を高めるだけでなく、DWIとの信号ミスマッチから発症時間を推定したり、IASによって血流の状態を評価したりと、診断と治療判断の“架け橋”となる非常に重要なシーケンスです。
MRIに携わる技師はFLAIR画像から「何を意味しているのか」「どんな時間軸か」「治療判断に使えるか」という目で見ていくことが、これからの大きなステップになります。
最後に
FLAIRは奥深いシーケンスですが、理解すればするほど臨床に役立つ武器になります。今後の読影や撮像設定の中で、ぜひ今回の内容を思い出し、画像の持つ“意味”を読み取る技師を目指してみてください。