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虫垂(vermiform appendix or appendix)の解剖

図はWikipediaより引用
✔︎虫垂は盲腸から起始し、腹腔内に突出する紐状あるいは指状の盲端状消化管
✔機能
・腸内細菌を一時的に蓄える
・若年期の免疫系の発達に関与
などが考えられている
✔︎長径は5~12cm、平均で約7cm、直径は3~8mm程度(筆くらいの太さ)
✔︎直径が最大になるのは、リンパ組織が最も発達する4歳前後
✳︎寸法は文献により異なる
■CT画像で虫垂を同定する方法
・まず右側腹部にある上行結腸を同定し、その尾側への走行を追って回盲弁を見つける
・それよりさらに尾側にある盲腸を同定
・盲腸から出る管状、ミミズ状の構造物が虫垂
(正常な場合は内部にエアーがあることが多く参考にする)
✳︎ 直径が10mmを超え、壁が厚く、造影効果が強い虫垂は異常である。

Athanasios Sakellariadis et al. Acta Med Acad. 2024 Dec;53(3):335-342.Figure2.より引用
✔︎虫垂は結腸の後ろにある場合が約60%を占めるが、その位置にはバリエーションが多いため、各検査において画像上の位置を慎重に確認する必要がある。また、盲腸自体の位置も多様であり、慎重な読影が求められるため、MPR(多断面再構成)が診断に有用である。
✔︎評価が困難な場合は、thin slice(スライス厚2mm・スライス間隔2mm)やMPR(冠状断・矢状断)による再構成を行い、同定を試みる。
虫垂炎(appendicitis)の病態
✔︎虫垂に発生する非特異的な急性炎症性疾患であり、最も頻度の高い急性腹症を引き起こす疾患
✔︎原因としては、細菌感染、ウイルス感染、異物、アレルギー、循環障害、ストレスなどがあり、これらが単独あるいは複合して発症するとされるが、詳細なメカニズムは不明
✔︎多くの場合、虫垂内腔の閉塞や狭窄が病態形成に関与しており、そこに細菌が繁殖して炎症を引き起こすことが主な原因とされている
✔︎虫垂の閉塞による虫垂内圧上昇 → 虫垂の拡張 → 血流障害・壊死・穿孔へといたる病態
✔︎閉塞した場合、虫垂は粘液を分泌し続けるため内圧が上昇
✔︎閉塞の原因としては、リンパ組織の過形成(若年者に多い)、糞石、異物、クローン病、腫瘍など
✔︎特に高齢者では、急性虫垂炎に悪性腫瘍が関与している可能性があり、注意を要する
✔︎最近では、バリウム検査後、特に2か月以内に急性虫垂炎が起こりやすくなるとの報告もある
Hao-Ming Li et al.Am J Med. 2017 Jan;130(1):54-60.e5.
疫学
✔︎急性虫垂炎の生涯発症率は約7%程度
→約15人に1人が生涯で経験(日本・欧米共通)
✔︎発症年齢:10〜30歳に多い
✔︎2歳未満の乳児では稀で、20歳前後で発症率がピーク
✔︎男女比は若干男性(男児)に多い傾向
✔︎推定患者数は減少傾向にあるが、高齢化社会を反映して高齢者の患者数は増加しているといわれている
✔︎季節性:冬よりも夏に多い傾向
✔︎高齢者では穿孔や基礎疾患としての虫垂腫瘍の発生率が高い
✔︎妊娠中の非産科的緊急疾患として最も頻度が高く、胎児死亡率10%、母体死亡率0.5%
臨床症状
✔︎痛みの移動:
初期:心窩部の不快感(内臓痛)
数時間後(1〜2日以内):右下腹部へ移動(体性痛)
が典型的
✔︎発熱、悪心、嘔吐、頻脈、ビリルビン値や炎症マーカーの上昇、その他の腹膜炎の徴候を伴う
✔︎発熱は軽度の場合が多い発熱(37°C台)
✔︎血液検査で白血球、CRPが上昇
白血球:異物に対する免疫が活動しているサイン
CRP:身体内で炎症が起きているサイン
穿孔が起きた場合、虫垂の感染が門脈を通じて肝臓に影響しビリルビン値が上昇
する場合がある
▪️右下腹部痛について

◯McBurney点:右上前腸骨棘と臍を結ぶ線の外側1/3の点(図の①)
虫垂の付着部の目安
◯Lanz点:左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右外側1/3の点(図の②)
虫垂の先端の目安
✳︎小児では虫垂の位置が変異している場合もあり、非特異的な症状を示すことが多い
◯ブルンベルグ徴候(Blumberg徴候)
✔︎腹壁を圧迫したときよりも、手を離したときに痛みが強くなる現象
✔︎一般的には「反跳痛(rebound tenderness)」と呼ばれ、腹膜刺激症状の一つである。
✔︎腹筋の振動が壁側腹膜に伝わることにより生じる
◯筋性防御
✔︎腹壁を押したときに腹壁の筋肉が緊張して硬くなる状態
✔︎腹膜の刺激に対する反応の一つで、身体が内臓を守ろうとする生理的な防御反応
✔︎厳密には、以下の2種類に分類されることがある
• Guarding(自発的防御):痛みや恐怖による反射的な腹筋の緊張。意識的な要素が含まれることがある。
• Rigidity(筋硬直):炎症などによる不随意な腹筋の持続的な硬直。強い腹膜刺激を示唆し、より深刻な所見とされる。
✔︎急性虫垂炎の原因は虫垂の閉塞であり、粘膜下リンパ濾胞の過形成や糞石(虫垂結石)によるものなどがある。
✔︎合併症としては、膿瘍(盲腸周囲膿瘍、横隔膜下膿瘍、Douglas窩膿瘍)や穿孔、汎発性腹膜炎から麻痺性イレウスを起こすこともあり、注意が必要である。
■Alvarado Score


✔︎急性虫垂炎の臨床症状・身体所見・検査所見を点数化したスコアリングシステム
✔︎合計10点で評価
✔︎急性虫垂炎である”ということの確定診断には至らないが、診断の補助として使える
✔︎除外目的で有効
A Alvarado. Ann Emerg Med. 1986 May;15(5):557-64.
分類
✔︎組織学的に
1)カタル性
2)蜂窩織炎性
3)穿孔性
に分類され、後者であるほどより進行した状態
✔︎カタル性虫垂炎のほとんどは保存的治療により治癒しうるが、蜂窩織炎性および壊疽性は外科的治療の適応となる
✳︎虫垂壁の穿孔を伴うものを穿孔性虫垂炎といい、壊疽性虫垂炎によるものが多いが、蜂窩織炎性虫垂炎に合併することもある。穿孔すると、穿孔直後でない限り、汎発性腹膜炎や限局性腹膜炎、あるいは膿瘍形成を認める。
✳︎カタル性や軽度炎症(まだ穿孔や膿瘍形成がないもの)は、欧米諸国において「単純性(非複雑性)虫垂炎」と呼ばれるようになってきている。
✳︎単純性虫垂炎に対し、穿孔性・壊疽性・膿瘍形成を伴うものは「複雑性虫垂炎」とも呼ばれる。
▪️カタル性虫垂炎
✔︎虫垂の炎症は粘膜表層のみにみられる状態
✔︎虫垂の外径は6mm以上に拡張し、虫垂壁の肥厚および壁の増強効果を認めることが多い
▪️蜂窩織炎性虫垂炎
✔︎炎症が虫垂壁の筋層、漿膜や間膜まで及ぶ状態
(炎症が虫垂の壁全層に及んでいる)
✔︎滲出液や膿瘍が認められることもある
✔︎さらに虫垂は腫大し、周囲脂肪織の吸収値の上昇(dirty fat sign)、外側円錐筋膜の肥厚、盲腸や終末回腸の壁肥厚が生じる
▪️壊疽性虫垂炎
✔︎虚血・壊死が進行し、粘膜が破壊されて穿孔を来す状態
✔︎虫垂の腫脹が高度で、虫垂壁の一部欠損・消失や膿瘍形成、虫垂周囲の腸管外ガス、虫垂外への糞石の逸脱などが生じる
治療方針
✔︎治療は手術または内科的治療(抗菌薬)
✔︎手術がゴールドスタンダード
✔︎手術に関しては、腹腔鏡下手術や開腹手術が行われる。選択は症例ごとや施設方針によって異なるが、近年では低侵襲治療の普及に伴い腹腔鏡下手術が増加
✔︎保存的治療には再発がみられることがあり再発率は10~37%程度
✔︎ 内科的治療でいったん症状(腹痛、発熱)が治まっても、体内では穿孔や膿瘍形成など病気が進行していることがあり、注意が必要である。
▪️手術が考慮されるケース
✔︎高齢患者
✔︎糞石を認める場合(放置すると穿孔から腹膜炎に進展する)
✔︎穿孔が疑われる場合
✔︎自覚症状が強い場合
▪️保存的療法が考慮されるケース
✔︎軽症の単純性急性虫垂炎
✔︎WBCが1万/μL以下
✔︎腹膜刺激症状が認められない場合
✳︎近年は保存的治療を十分に行って炎症を沈静化させた後、6~8週間後に切除を行う待機的虫垂切除術(interval appendectomy)を実施する施設が増えており、その有用性を示す報告も多い
✔︎以上より、治療方針を決定するにあたって単純性か複雑性かの判断、膿瘍形成の有無などを評価するのが画像診断の役割
画像診断
✔︎身体所見や血液検査所見に特異的なものがないため、診断には画像検査が必須となる。
✔︎画像診断の役割は、非典型例を含めた蜂窩織炎以上の虫垂炎の診断と穿孔や膿瘍形成などの合併症の評価
✔︎第一選択は超音波検査
✔︎診断が確定的で腹腔内膿瘍などの合併症がなければ、追加のCT検査は不要である。
✔︎特に小児や妊娠可能年齢の女性では、被ばくを考慮して極力CT検査を避けるべきである。
✔︎痛みが強く患者の協力が得られない場合や、肥満によって診断が困難な場合、また穿孔などの合併症が疑われる場合にはCT検査を行う
⭐︎単純X線検査
✔︎急性虫垂炎は腹部単純X線では所見が出ないことが多いが、虫垂結石が検出されれば、CTや超音波による追加検査が不要となる場合もある。
✔︎ 虫垂結石は腹部単純写真でも描出されるが、その石灰成分の多少や骨盤との重なりなどにより検出が困難なこともあり、CTのほうが検出率は高い。
⭐︎CT検査
✔︎腹部造影CTでの急性虫垂炎の診断率は、感度91.9~100%、特異度87.5~100%
✔︎CT所見として、以下の所見がみられればほぼ確定診断となる。
▪️虫垂自体の所見
◯虫垂の腫大
✳︎拡張は外径6mm以上とする文献が多いが、正常例との重複があり絶対値ではない
◯壁肥厚(3mm以上)
◯造影CTで強く濃染される壁
◯糞石
▪️周囲への炎症の波及による所見
◯周囲脂肪組織の毛羽立ち様変化・濃度上昇(dirty fat sign)
◯外側円錐筋膜の肥厚
◯虫垂周囲の液体貯留
◯腹水
◯周囲腸管壁肥厚および膿瘍
✔︎CT所見のない“虫垂炎”では、少なくとも急いで外科手術を施行する必要はないといえる。
✔︎単純CTのみでも診断は可能だが、膿瘍形成例や盲腸癌による二次性虫垂炎(憩室炎や他の炎症に随伴する虫垂の炎症)などを考慮し、可能であれば造影CTが望ましい。
✔︎虫垂炎のすべてにCTが必要というわけではないが、実際には臨床的に急性虫垂炎として入院した患者の50%は虫垂炎ではなく、また、虫垂炎として摘出された虫垂の20~30%は正常であったと報告されており、臨床診断は意外と容易ではない
症例:41F右下腹部痛

回腸末端の下の盲腸から拡張した虫垂を同定でき、内部に糞石を認める。
※✔︎虫垂炎の約1/3に糞石を伴う。糞石は虫垂炎の原因として広く認識されており、虫垂腫大が軽度な場合でも、閉塞起点の所見として重要である。また、糞石の存在は穿孔のリスクが高いため、補助的所見としてだけでなく、臨床的重症度を評価する因子としても考慮する。
症例:75M

虫垂は腫大し、周囲脂肪組織の毛羽立ち様変化・濃度上昇(dirty fat sign)を認める。
周囲に炎症が及び、外側円錐筋膜の肥厚も確認できる
✳︎dirty fat sign とは、炎症が疑われる消化管の壁肥厚に比べ、周囲の脂肪織の濃度上昇が目立つ所見であり、虫垂炎や憩室炎でよくみられる。脂肪条件(Window Width: 400 / Window Level: -25HU程度)で観察すると有用である。
感染性腸炎や悪性腫瘍では壁肥厚や不整な濃染像が目立つものの、周囲脂肪織の濃度上昇がはっきりしないため、鑑別に役立つ。
※脂肪組織浸潤像と腸管壁肥厚は、その付近に炎症(あるいは腫瘍)病変が存在することを示す重要な所見ではあるが、虫垂炎に特異的な所見というわけではない。(たとえば、憩室炎や結腸癌でも認められる。)
脂肪組織浸潤は脂肪の少ない患者や小児では抽出できないことが多い。膿瘍は他の炎症性疾患(たとえば付属器炎)でもみられる。
※外側円錐筋膜(lateroconal fascia)の肥厚について

炎症が筋膜に波及すると血漿成分の漏れ出しによる浮腫と炎症細胞の浸潤により筋膜が肥厚する。外側円錐筋膜は後腹膜領域の筋膜構造の一つであり、前腎筋膜と後腎筋膜が外側で融合する部位に認められる。上行結腸と下行結腸が隣接し、腸腰筋やその周囲組織、後腹膜臓器(腎臓・尿管など)を包み支える役割があり、虫垂からも間接的に炎症波及を受けやすい位置にある。
症例:急性虫垂炎による虫垂の穿孔
13F 右下腹部痛、発熱、嘔吐

虫垂内部に糞石を認め、周囲に脂肪織濃度上昇を認める。虫垂の壁が造影される一方で造影効果が欠損している部位があり、虫垂の穿孔を疑う所見である。
※虫垂の穿孔
診断や手術の時期が遅れると、虫垂は穿孔し、様々な合併症を引き起こすことがある。虫垂が穿孔すると広範囲に炎症が及ぶため、腹痛や圧痛を広い範囲に強く認めるようになる。39°Cを超える高熱や左方移動を伴う2万/μLを超える白血球の増加などを呈するようになる。糞石は穿孔のリスクが高い。穿孔の所見は膿瘍、腹膜炎、敗血症などの合併症のリスク高いことを意味する。画像所見としては壁の造影効果の欠損、虫垂内容物の漏れ出し、フリーエアーが重要。
症例:18F 急性虫垂炎による膿瘍形成

虫垂炎患者の骨盤腔に壁が造影される液体貯留が認められる。膿瘍を疑う所見であり、内部に糞石と思われる高吸収の構造物がみられる。
✔虫垂炎により虫垂が破綻すると内容物が外に漏れ出る+炎症の波及により膿の塊(膿瘍)を形成する場合がある。
✔︎CT検査では、横隔膜下膿瘍やDouglas窩膿瘍などの合併症の評価が必要なため、撮像範囲に横隔膜から恥骨結合を含めるよう設定する。
✔膿瘍は虫垂周囲のみならず、離れた部位(特にダグラス窩)にも形成されることに注意したい。蜂窩織炎と膿瘍は必ずしも明確に区別されるわけではなく、両者の移行形、すなわち辺縁不整な軟部腫瘤内の一部が低吸収化した状態を認めることもある。
✔膿瘍形成した場合、ドレナージや手術が必要
✔大きな膿瘍形成は過大侵襲回避のため保存的治療をメインに行う場合が多い
✔内容物は造影されず、壁がリング状に造影される
■膿瘍を形成しやすい部位
・横隔膜下
・腹腔内(多発することも多い)
・盲腸周囲
・Douglas窩
症例:34F 妊娠19週

※MRI検査
✔︎MRI検査は腹部救急疾患にはあまり普及していないが、被ばくがなく虫垂の描出能が高い。また、造影剤を使用せずとも骨盤部のコントラスト分解能が良好で、組織特異性が高い。
✔︎急性虫垂炎の診断におけるMRIの感度は100%、特異度は93.6%と報告されている。
(Ivan Pedrosa et al. Radiology. 2006 Mar;238(3):891-9.)■各シーケンス
■各シーケンスの役割
T2WI:浮腫、膿瘍の検出 ※脂肪抑制では脂肪織濃度上昇、周囲の浮腫
DWI: 炎症部位・膿瘍内部の拡散制限
T1WI(造影):虫垂壁の強い造影、膿瘍壁のring状増強効果
参考書籍
MEDIC MEDIA 病気がみえる vol.1消化器
ここまでわかる急性腹症のCT 荒木力 メディカル・サイエンス・インターナショナル
画像診断 Vol.38 No.1 2018
参考文献
Athanasios Sakellariadis et al. Acta Med Acad. 2024 Dec;53(3):335-342.
Hao-Ming Li et al.Am J Med. 2017 Jan;130(1):54-60.e5.
A Alvarado. Ann Emerg Med. 1986 May;15(5):557-64.
Ivan Pedrosa et al. Radiology. 2006 Mar;238(3):891-9.