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✅ 本記事の目的
- 細胞性浮腫と血管性浮腫の違いを理解する
- 急性期脳梗塞の画像所見(DWI・FLAIR・early CT sign)の基礎知識を身に着ける
- DWI-FLAIRミスマッチが示す意味を理解する
はじめに:その”信号変化”、病態から説明できますか?
急性期脳梗塞において「拡散強調画像(DWI)で高信号」「FLAIRで信号変化あり」などの所見はよく出会いますが、それらを”なぜ起きるのか”まで理解できていますか?
丸暗記ではなく、病態に紐づけて画像変化を理解することが、真のプロへの第一歩です。
そのカギとなるのが今回のテーマ:
細胞性浮腫(cytotoxic edema)と血管性浮腫(vasogenic edema)
1. 浸透圧と半透膜のしくみを知ろう!

まずは基礎知識として、「半透膜」について説明します。
半透膜とは、小さな穴が空いている膜のことで、水のような小さい粒子は通過できますが、ナトリウムイオンのような大きな粒子は通過できません。例えるなら、洗濯ネットのような構造です。水は通っても、卓球ボールのような大きなものは通りません。
細胞の外側を包む細胞膜も、この半透膜に相当します。細胞膜も同様に、水は通過できますが、大きな粒子は通ることができません。
浸透圧とは?

次に浸透圧の概念を説明します。
左と右に分かれた2つの空間の間に半透膜があり、それぞれにオレンジ色の大きな粒子(水に溶けた物質)と青色の水分子があると仮定します。もし左側に大きな粒子がたくさんあれば、そこは濃度が高く、水分子は濃度の高い方(=左側)に流れ込もうとします。
これが浸透圧のイメージです。もしこの水の流れを止めようとすると、手で押さえる必要があります。この押さえる力が浸透圧(osmotic pressure)です。
2. 細胞性浮腫とは?

この基礎を踏まえて、「細胞性浮腫」の仕組みを見ていきましょう。
細胞の内外では、ナトリウム・カリウムポンプ(Na⁺/K⁺ポンプ)が働き、細胞の外にナトリウムを排出し、カリウムを取り込むバランスを保っています。
しかし、急性期脳梗塞が起こるとエネルギーが枯渇し、このポンプ機能が破綻します。すると、ナトリウムが細胞内に蓄積し、さらに浸透圧の作用で水も細胞内に引き込まれてしまいます。
また、カルシウムイオンやペプチドのような大きな粒子も細胞内に増えていくため、細胞内は「大きな粒子だらけ」になり、ますます浸透圧が高まります。
その結果、外から細胞内へ水がどんどん流れ込み、細胞がパンパンに腫れてしまう──これが細胞性浮腫です。
発生の流れ
- 脳梗塞で酸素が来ない
- Na⁺/K⁺ポンプが破綻
- 細胞内にナトリウムがたまり、浸透圧により水が流入
- 細胞がパンパンに腫れる
画像でどう見える?


- DWI:高信号(拡散制限)
- ADC:低信号
- early CT sign:皮質のCT値低下
それでは、細胞性浮腫が画像上でどのように表れるかを見ていきましょう。
図のように、四角い箱が細胞、その周囲の空間を細胞間隙と呼びます。細胞間隙は通常、自由に動ける水分子で満たされています(ここでは青色で表現)。
急性期脳梗塞発症から1〜3時間ほど経過した状態では、細胞が細胞性浮腫により腫れ上がっています。細胞間隙のスペースは狭まり、水分子の自由な動きが制限されてしまいます。
この「水が動きにくくなる現象」を拡散制限と呼び、画像では以下のような変化として表れます:
- DWI(拡散強調画像):高信号
- ADCマップ:低信号
この拡散制限が、急性期梗塞の診断における重要な所見です。
さらに、この細胞性浮腫は特に大脳皮質(灰白質)で起こりやすいため、CT画像にも特徴的な所見が現れます。
それがEarly CT signと呼ばれるものです。
通常、灰白質は白質よりもCT値が高く(=やや高吸収)表示されます。しかし、浮腫により神経細胞が水っぽくなると、水のようなCT値(低吸収)に近づき、灰白質が白質と区別しにくくなるのです。
これがEarly CT signサインの本質であり、急性期脳梗塞における初期CTの重要所見のひとつです。
3. 血管性浮腫とは?


細胞性浮腫では、細胞内に水が流入し細胞がパンパンに腫れ、その結果として拡散制限が生じるという病態でした。
一方で、血管性浮腫(vasogenic edema)は、細胞性浮腫とは異なるメカニズムで起こります。
血液と組織液の関係
まずは「血液」と「脳組織(組織液)」の関係について確認しましょう。
血液は脳組織に酸素や栄養を届け、逆に不要な物質を回収するという物質交換を行っています。このやり取りの間には、「血液脳関門(Blood Brain Barrier:BBB)」という非常に重要な構造があります。
BBBは、有害物質や不要な水分が血液から脳内に入り込むのを防ぐ“関所”のような存在です。この関門のおかげで、脳は常に安定した環境を保つことができています。
脳梗塞と血管性浮腫の発生
しかし、脳梗塞が進行し時間が経過すると、この血液脳関門(BBB)が破綻します。
するとどうなるか?
血管の中から大量の水が、細胞と細胞の間(細胞間隙)に洪水のように流れ込んでくるようになります。これが血管性浮腫です。
細胞性浮腫では細胞そのものが腫れていましたが、血管性浮腫では細胞の外側の空間=細胞間隙が水で満たされて拡大していきます。この段階では水の総量が増えるためFLAIRで高信号となります。
発生の流れ
- 発症から時間経過(4時間〜)
- 血液脳関門(BBB)が破綻
- 血管から細胞間隙に水が流入
- 細胞間が水浸しに→水の量が増える→FLAIR高信号
4. DWI-FLAIRミスマッチとは?

状態 | 病態 | DWI | FLAIR | 時間の目安 |
---|---|---|---|---|
ミスマッチ陽性 | 細胞性浮腫のみ | 高信号 | 正常 | 発症1〜3時間 |
ミスマッチ陰性 | 血管性浮腫あり | 高信号 | 高信号 | 発症4時間以上 |
Diffusion-FLAIRミスマッチとは?
ここで知っておきたいのが、**拡散強調画像(DWI)とFLAIRの信号を比較する“ミスマッチ”**です。
✔ ミスマッチ陽性(Mismatch Positive)
- DWI:高信号
- FLAIR:変化なし
- ⇒ 細胞性浮腫のみが存在している段階(発症後1〜3時間)
✔ ミスマッチ陰性(Mismatch Negative)
- DWI:高信号
- FLAIR:高信号
- ⇒ 血管性浮腫も進行している段階(発症後4時間以上)
この違いは、水の「動き」と「量」の違いによって生まれます。
細胞性浮腫では、細胞外から細胞内への水移動はありますが、全体の水分量は変わらないため、FLAIRには現れません。逆に、血管性浮腫では外部から大量の水が細胞間隙に流入するため、FLAIRでも明確な高信号として描出されるのです。
ミスマッチの臨床的意義
このDiffusion-FLAIRミスマッチは、血栓溶解療法(rt-PA投与)の適応時間を予測するうえで非常に重要な指標です。
- ミスマッチ陽性(FLAIR変化なし):発症からまだ3時間以内の可能性が高く、rt-PA投与の適応内
- ミスマッチ陰性(FLAIR高信号):すでに発症後4時間以上経過していると推定され、適応外の可能性が高い
このように、画像所見から時間経過を間接的に推定できるため、治療方針を決める際の大きな助けになります。
5. 覚えておくべきキーワードまとめ
- 細胞性浮腫:水が細胞の中へ → DWI↑ / FLAIR変化なし
- 血管性浮腫:水が細胞間へ → DWI↑ / FLAIR↑
- RDCTサイン:CTで皮質の低吸収域
- Diffusion-FLAIRミスマッチ:治療タイミングの指標
おわりに:画像変化を”意味で理解”できる
急性期脳梗塞の診断において、画像を病態とリンクして理解することが重要です
「何が写っているのか」だけでなく、「なぜそう写るのか」まで理解し、「画像がどのように治療に活かされるのか」を普段から考えるようにしましょう