脳梗塞の病態と分類

脳梗塞とは脳に酸素や栄養を送る動脈が狭くなったり詰まったりして脳組織が壊死に陥る疾患です。

脳梗塞は脳血管疾患死亡数の半数以上を占める重要な疾患で、寝たきりの原因疾患の第1位であり,発症予防とともに,早期リハビリテーションによる社会復帰が重要です。

この記事ではそのような脳梗塞の分類について、詳しく見ていきたいと思います。

脳梗塞の分類では、NINDS(National Institute of Neurological Disorders and Strokes) の分類が最も使われます。

[ Classication of Cerebrovascular Diseases III (CVD-III)(1990)]

この分類では、脳梗塞を発症機序、臨床カテゴリー、灌流域(病巣部位による症候・徴候)

発症機序では血栓性、塞栓性、血行力学性

臨床カテゴリーではアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞、その他

還流域では内頸動脈、中大脳動脈、前大脳動脈、椎骨動脈、腦底動脈、後大脳動脈に分けて分類していきます。

もう一つ重要な分類としてSSS-TOAST分類があります。

NINDS分類では、臨床カテゴリー具体的な診断基準が明記されていませんが、TOAST分類 (Trial of Org10172 in Acute Stroke Treatment, 1993年)でその基準が設定されている点で重要です。

TOAST分類は2005年にSSS-TOAST分類に改訂されているため、スライドにはそちらを載せています。

こちらのほうがNINDS分類よりもより治療方針の決定に関して用いられやすい分類となります。

こちらの分類ではアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症、その他の原因、原因不明の脳梗塞に分けていきます。

その他の分類には

①アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞にあてはまらず、他に明らかな原因がある脳梗塞

(大動脈原性脳梗塞、脳動脈解離、モヤモヤ病、抗リン脂質抗体症候群、SLE・結節性多発動脈炎・側頭動脈炎・

高安病などの血管炎、静脈洞血栓症、先天性 AT Ⅲ欠損症、プロテインC・S 欠損症など)

②2つ以上の原因が同時に存在してカテゴリーの確定が困難な脳梗塞

が含まれ、

それ以外は原因不明に分類します。

各分類の前に脳血管の構造と動脈硬化、プラークについての基礎を説明します。

脳動脈は内膜(intima)中膜(media)、外膜(adventitia)の三層構造になっています。

このうち、内膜と中膜を一緒に(複合体として)みたものを内中膜複合体(IMC:Intima-Media Complex)といい、その厚さを内中膜複合体厚(IMC:Intima-MediaThickness)といいます。

全身の血管のなかでも頸動脈は動脈硬化が最も起こりやすい血管であり、かつ、エコーで見やすい 血管でもあります。エコーでのこの内中膜複合体厚はからだ全体の血管の動脈硬化の進行程度と比例して厚くなることが判っており、動脈硬化の程度を判定する重要な指標になっています。

概ね、1.0mm以下が正常、1.1mm以上が動脈硬化の目安と言われています。

エコーでは内膜と中膜の複合体を観察しますが、実際には内膜にできたプラークという肥厚が原因となります。

そこで内膜に着目すると、

コレステロールなどのかたまりによる内膜の肥厚性病変をプラークといいます。

プラークができるメカニズムですが、高血圧などの影響で内膜の血管内皮細胞に傷がつくと、LDLコレステロールがその隙間から入り込んでいきます。

そうすると、慢性の炎症や、平滑筋の増殖などの反応性変化が起きることで内膜が厚くなり、プラークができるというメカニズムです。

このようなプラークは顕微鏡で見るとジュクジュクに見えるため、粥腫(アテローム)とも呼ばれます。

血栓性(thrombotic)

脳動脈に血のかたまり(血栓)が生じて閉塞することにより生じる脳梗塞です。

内膜の肥厚部であるプラークに傷がつくとその部分に血栓を作っていき、その血栓によって血管が閉塞して脳梗塞になります。

閉塞機転は比較的緩徐に進行するため有効な側副血行路が発達しやすく、病変は閉塞動脈枝の灌流域の一部に限することが多いです。

塞栓性(embolic)

心臓や中枢側血管など離れた部位に生じた血栓が栓子となって遠位側脳動脈を閉塞し、これによって脳梗塞を生じる場合を指します。

栓子の供給源としては心臓(cardigenic embolism),動脈硬化巣(artery-to-artery embolism),右→左シャント例での静脈血栓(奇異性塞栓症 paradoxical embolism)などがあり、手術やカテーテル検査の合併症としても起こり得ます。

塞栓性は血栓性と比べて「突然」起こるため、側副血行路を作る時間がなく「重篤化しやすい」特徴があります。

砕けた血栓のかけらが閉塞血管の末梢枝をも閉塞することが多いので有効な側副血行路が得られにくく、広範な領域に梗塞を生じやすいです。また塞栓子の融解や破砕により閉塞血管は自然に再開通しやすく、これに伴って出血性梗塞 hemorrhagic infarction を形成しやすい特徴があります。

血行力学性( hemodynamic)

何らかの原因で脳動脈の灌流圧が低下することによって梗塞を作る場合を指します。正常では脳動脈には自己調節能があるので全身低血圧が起こっても必ずしも脳動脈に灌流低下が起きるわけではありませんが、頸部内頸動脈などの主幹脳動脈に血栓性閉塞・高度狭窄がある場合には、血圧低下などの際に当該脳動脈の灌流圧低下が起こりうる。この場合、Willis 動脈輪を介する側副循環が良好であっても前、中、後大脳動脈支配域の間では栄養をまかなう力が弱いため梗塞の原因となります。

イメージ的には山を流れる川の流れを考え、川の近くの土壌はミネラルなどの栄養が豊富ですが、川から離れた土壌は栄養が不足しやすい様子に似ています。こうした機転を血行力学性と言い、脳主幹動脈間の境界領域に梗塞を生じやすく、境界領域梗塞(borderzone infarction)、 分水嶺梗塞(watershed infarction)と呼ばれています。

アテローム血栓性脳梗塞は主幹動脈の動脈硬化が原因の脳梗塞です。

プラーク傷がつくとそこに血栓ができていきますが、その血栓が原因の血栓性、血栓が飛んでいって塞栓する塞栓性、狭窄が原因でもともと栄養をまかなう力が弱い領域が梗塞を起こす血行力学性、いずれもありえます。

心臓内に形成された血栓によって起こる脳梗塞です。

心臓からの血栓は非常に大きいため、アテローム血栓性と比べて側副血行路を作る時間がなく、一気に梗塞が完成して重篤化しやすい特徴があります。

穿通枝末梢の動脈硬化による梗塞です。

脳動脈には主幹動脈から髭のように生えている穿通枝があり、その穿通枝の先が詰まって梗塞が起きた場合ラクナ梗塞となります。

穿通枝は非常に細く、梗塞が小さいため、症状や重症度が小さい特徴があります。

このように脳梗塞を分類することは重症度と治療方針の判断のために重要です。

このうち心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞の順に重症で、相対的にラクナ梗塞は軽症となります。臨床病型によって患者予後と再発可能性は大きく異なり、例えばアテローム血栓性脳梗塞例はラクナ梗塞例よりも死亡率が高い、心原性脳症例では他の病型よりも1か月死亡率が高く、再発を起こしやすいなどの特徴があります。

治療方針では、アテローム血栓性脳梗塞では頸動脈内膜剥離術(CEA)や頚動脈ステント留置術(CAS)など、ラクナ梗塞例にはアスピリンなどの抗血小板療法、心原性脳塞栓症には機械的血栓回収療法を考慮するなど、治療法の選択に大きく関わります。

以上、脳梗塞の分類の解説でした。

脳梗塞の症例に出会ったらどの分類に当てはまり、どのような治療方針になるのかを必ず確認するようにしましょう。

⭐︎参考文献

Stroke. 1990 Apr;21(4):637-76.

Hakan Ay et al.Ann Neurol. 2005 Nov;58(5):688-97.

☆今回の動画に関連するデータベース

脳卒中データバンク2021を参考に作成

アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞はおおよそ30%前後ずつとなっています。

脳卒中治療ガイドライン2021を参考に作成

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